卓越した調律の技術と知識が身上。脳の訓練にも役立つピアノを楽しく

藤井幸光社長の経歴や考えを対話形式にしました。

司会 重厚なピアノが並ぶ㈲藤井ピアノサービスさんですが、藤井社長はもともと調律師でいらっしゃるとのこと。どのような経緯でこのお仕事を始められたのですか。

藤井 私は昭和49年に浜松市のピアノ修理会社に研修生として入社し、そちらで国産ピアノを始め、スタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタイン、 グロトリアンなどの名器と称される世界中のピアノのオーバーホールや修理に従事致しました。 同60年には帰郷しまして当社を創業、平成元年9月に法人化して現在に至っています。

司会 調律や修理だけでなく、ピアノの販売まで手掛けられた理由もお聞かせ下さい。

藤井 調律のお客様を増やしたいという単純な理由の他に、後々の面倒をも見させて頂くピアノは、技術者である自分の目に適ったものをお買い求め頂きたいという 気持ちがありましたから。

司会 同価格帯でも質の差があるのですか。

藤井 技術者の立場から見て同価格であれば、どれが良いのかなど価格に対する値打ち感があるのは確かでして、極端に言えば、同一メーカーの同機種を10台並べれば 1番から10番までランク付けできるほど。結局、材料が自然の木材のため、技術が全く平等に施されたとしても、どうしても一台一台音やタッチの違いが発生しますし、 ピアノも最後は人間の手で仕上げられるため、担当者個々の感性や感覚でも音は微妙に違ってくるのです。

司会 奥が深い世界ですね。では、調律というお仕事を改めて教えて頂けますか。

藤井 和音の基準を作り、そこから12個の音程を構成する作業です。音程の取り方(調律の方法)は色々ありまして、普通は平均律が使われますが、私は平均律だけでなく イギリス王室御用達のジョン・ブロードウッド社の150年前のピアノを始め数々の国内外ピアノの再生や修理、調律に携わってきた経験を生かし、バロッティ&ヤング法や ヴェルクマイスター法も駆使してヨーロピアンタイプの調律もこなしています。

司会 調律師として豊富な経験をお持ちの社長ですが、モットーも教えて下さい。

藤井 お客様にもっとピアノの音を楽しんでほしい、もっと音階や和音の作りを楽しんでほしいというのが私の願いでして。モットーも"自然な音、 人間が生理的に受け入れられる音、そして楽しめる音作り"になります。万人向きというものはないでしょうが、例えば秋の虫の声を思い起こして下さい。 調律師も指揮者もなく、ある意味でバラバラですが、綺麗に聞こえますよね。

司会 聞いて心地よく、楽しい音作りをということですね。ピアノ教室も開設されていらっしゃいますが、ピアノを習いたい子供さんや習わせたいとお考えの親御さんに アドバイスがあれば。

藤井 ピアノは脳の訓練。上手に弾けることは第二、第三の目的にしてほしい――これが私の持論なのですよ。スポーツをされるほとんどの方が基礎体力を高めるために ランニングをされますが、私はピアノを使った音楽的訓練は脳のジョギングかランニングだと考えています。五感の刺激を受けて発達する脳に、ピアノを弾くことは 目の持つ視覚の認識力、耳の持つ聴覚の認識力、指先の触覚などを通して多角的な刺激を与えることになりますからね。ちなみに、ある調査で幼児期から音楽的訓練を したグループとそうでないグループの知能テストをしたところ、平均で10ポイントの差が出たという報告もあるのです。ただし、そこで重要なのは「やりたい」という 意志や「好きだ、楽しい」という感情でしてね。「怖い」という恐怖心や「嫌だ」という否定的、消極的感情を伴いますと、ストレスになって健康を損なうことも ありますし、脳の方では忘れようという働きをするため、なかなか身に付かなかったり偏った覚え方をするのです。一方、いいところを探して誉めてあげると褒賞 されたことで記憶が高まるのです。

司会 長所を探し、誉めてあげる――これは何にしても大切なことですよね。

藤井 おっしゃるとおり。せっかくピアノを買われたり高い月謝を払われても、9割の子供達はピアノの世界で生きるなどの結果に繋がらないのが実情ですが、 ピアノを習うことにどういう効果があるのかを地道にお伝えしていきたいですね。特に21世紀は本質、人間性の問われる時代になっていくと思いますが、 ピアノを使った音楽教育も心理学的や生理学的、あるいは哲学的など1つのものをマクロに見る力を養い、人間性を深めてくれるはずです。

司会 最後に将来の夢をひと言。

藤井 夢は郊外の静かな場所に、100年は使えそうなログハウスの店を持つこと。そしてお店にお客様が来られると、調律や修理で外回りしていた技術屋の主人が 鞄を抱えて店に戻り、お話ししながらプロの目で選んだピアノをお勧めする。出会ったお客様一人一人と生涯お付き合いをしていく、そんなヨーロッパスタイルの 修理工房のあるピアノ店を造ることですね。

司会 素敵な夢をぜひ実現して下さい。